簡易コーパスとしての活用[生徒・学生のwriting能力向上を目指して]
書籍本体に収録されている7万5千例に及ぶ用例などをパソコンの大きな画面(ウィンドウ)で確認できること、そしてプリントアウトができ教材として利用できることがDual WISDOM英和辞典[Web版]の大きな特徴の一つである。Web版には独自用例が2,000例ほど追加されている。Web版では収録全用例(75,000+2,000)のなかから、検索対象後を含むものすべてを抽出できるため、簡易コーパスとして活用できることが大いに期待でき、英和辞典指導に一石を投じることになるであろう。
Web版では「見出し語・成句検索」、「用例検索」が可能であるが、「見出し語・成句検索は」市販の電子辞書でも可能である。しかし「用例検索」の利用に関して言えばWeb版の方がはるかに使いやすく、用例も使用頻度に基づいて編纂されているため、検索された用例は使用頻度が高い。さらに用例は、辞書に用いる完結した用例であるため、教材作成に使用する際には一般的なコーパスを検索した場合のように文脈に依存する部分を改変する必要性はない。そのまま教材として利用でき、生徒・学生に提示することができる。英作文指導などに威力を発揮するであろう。現場の中学・高校・高専・大学の先生方にとっては時間・労力の節約ができ、大きなメリットの一つであると言える。
Web版を利用した「用例検索」の活用法を紹介したい。
◆「用例検索」 活用例その1
コロケーション指導、Native Check機能として
「見出し語・成句検索」では句動詞(phrasal verb)などを瞬時に導き出すことができるが、英語特有のコロケーションを導き出すことはできない。しかし「用例検索」を活用すればコロケーションを導き出すことができる。大規模英語コーパスにおける語彙高頻度ベストスリーは[1]the [2]be動詞の活用形 [3]ofである。ofを含むコロケーションの獲得が英語母国語話者の英語に近づく第一歩であると考えられている。例えばofを含む5語から成るコロケーションをBritish National Corpusで検索すると the rest of the class等の用例が高頻度で出現する。the rest of ~ (~の残り) は日本人英語学習者があまり上手く使えないコロケーションの一つである。
「用例検索」で検索すると次のような用例が出てくる。
検索語:the/rest/of/ (検索上 / はand検索(いずれの語も含む)を示す)
「用例検索」を活用すれば、様々なコロケーションを導き出すことができ、生徒・学生に提示することができる。また英語教師は自作の英作文・論文をnative speakerにチェックしてもらわなくても、コロケーションを確認することができる。
◆「用例検索」 活用例その2
wishを含む会話での定型表現の中で、I wish I could (…) [仮定法過去・仮定法過去完了]の定型表現が高頻度で現れる。見出し語wishの中に、I wish I could (…)の用例として2例挙げられている。
上記2例の用例だけでは、例文提示、英作文指導などのレベルで不十分である。例文を補うために「用例検索」が役立つ。「用例検索」で検索をするとさらに4例ヒットする。見出し語could, go, lead, onlyの中に、求める用例が出てくる。
検索語:I/wish/I/could (検索上 / はand検索(いずれの語も含む)を示す)
紙の辞書では紙幅の制限もあり、用例の数にも制限を加えざるを得ない部分もあったが、Web版では辞書全体をコーパスとして活用できるため、より多くの適切な例文を生徒・学生に提示することができる。必要に応じてプリントアウトし生徒・学生に教材として配布することができる。
◆ 用例追加 さらなる可能性を求めて
alreadyの位置は9割が文中であり、残りの1割が文尾・文頭に現れると記載されている。文尾の用例は「用例検索」を利用すれば、見出し語already, enough等の中に見つけることができるが、文頭の用例は見当たらない。当然であろう。文頭の例は使用頻度が低く、書籍本体の紙面節約の観点から記載されてないことは容易に想像できる。将来的に、Web版で紙面に記載できなかった用例をさらに追加していくことができれば、低頻度の語法も確認でき、Web版の利用価値はさらに高まるであろう。(用例検索により画面に表示される低頻度の用例には、高頻度の用例との整合性を保つために[まれ]などの表示が必要になるであろうが、、、)
「用例検索」結果 検索語:already
Web版英和辞典は、用例追加、検索機能の向上により、新たな可能性を秘めていると言える。将来、英作文学習コーパスとして活用できればと期待している。研究上、楽しみな分野でもある。